2023-01-01から1年間の記事一覧

『セミコロン』セシリア・ワトソン

自分の今後の人生で英語の文章を書くことはあるかもしれないが、その文章でセミコロンを用いることはない。これは断言してもいい。しかし、そもそも、授業で教わった記憶がない。仮定法も教わった、分詞構文も教わった、SVOCの分析は散々やった、でもセミコ…

『足利将軍たちの戦国乱世』山田康弘

日本史の記憶を辿ってみる。室町幕府の将軍といえば足利尊氏に始まり、南北朝統一と金閣寺の義満、くじ引き将軍こと恐怖政治の義教に、応仁の乱と銀閣寺の義政、戦国時代に暗殺された義輝と、最後の将軍の義昭あたりが記憶にある。 実際には他にも将軍がいる…

『ジャコブ、ジャコブ』ヴァレリー・ゼナッティ

著者のヴァレリー・ゼナッティは、フランス生まれだが、彼女の両親は、フランス植民地時代のアルジェリアで生まれており、アルジェリアの独立に伴ってフランス本国に移住したそうだ。このような人々を「ピエ・ノワール」というらしい。ゼナッティ自身は、10…

『ラウリ・クースクを探して』宮内悠介

読んだ後にその本のことを誰かに話したくなるような本は「いい本」である。 過去に誰かが言っていそうな気もするし、「いやいや、『いい本』ってそういうものではない」という向きもあると思うが、自分はそう思っている。 本書は2023年8月の刊行以来、多くの…

『ブックオフから考える』谷頭和希

「ブックオフ」は爆薬のような言葉で、特に「本」が話題となっている文脈では取扱注意である。使い方を間違えると、作家に利益が還元されない、とか、出版文化を壊す元凶、といった指摘がやってきて爆発してしまう。あとには火のくすぶる焼け跡が残るばかり…

『消費者をケアする女性たち』満薗勇

この本の主役は「ヒーブ」という人々である。ヒーブは「Home Economists In Business」の略で企業内家政学士という意味だそうだ。消費生活の発展を背景にアメリカで20世紀前半に生まれた概念で、日本には1970年代から導入された。60年代の高度成長が終了し、…

『雌犬』ピラール•キンタナ

概要 主人公のダマリスは40歳を迎えようとする黒人女性。コロンビアの沿岸部の都市であるブエナベントゥーラの沖にある島で、別荘の管理人をして暮らしている。別荘は地元の村からは少し離れた「崖の上」にある。夫のロヘリオは大柄で、かつては不妊治療にと…

『荒地の家族』佐藤厚志

職場で2011年の3月11日が話題になると、自分はあの時どうしていた、という話になりやすい。職場で、学校で、家で、あの時に遭遇した個別の体験談が、人々の前で語られる。話す人はもちろん、聞く人にも見た映像が聞こえた音が呼び起こされる。言ってしまえば…

『語られざる占領下日本』小宮京

日本の占領期における人々の行動は、まだまだ不明な点が多い。導入で著者が取り上げるのは白洲次郎。終戦から二十年が経過した頃のインタビューで、彼は「非常に忘れようと努力していることもある」と告げる。その理由として著者はGHQの資料を挙げる。そこに…

『天使が見たもの』阿部昭

表題作の『天使が見たもの』を含め14篇が収録されている。先日の竹西寛子の作品集と同様に、いくつかの作品は高校の現代文の教科書に掲載されたものであるという。 『天使が見たもの』は沢木耕太郎の解説がすべてを物語っている。少年の遺書の内容と、その実…