2022-01-01から1年間の記事一覧

『崩壊』オラシオ・カステジャーノス・モヤ

「ラテンアメリカの文学は登場人物が多くて関係性がよくわからない、そもそも名前からして複雑だ」。そんな心配はこの本に限っては御無用だ。基本的に登場するのは一つの家族。異父•異母の兄弟姉妹はあまり登場しない。そして登場人物の一人、レナ・ミラ・ブ…

『すべて内なるものは』エドウィージ•ダンティカ

エドウィージ•ダンティカの短編小説集で、日本での発行は2020年。八つの作品が収録されていて、ハイチに暮らす人々というよりは、国外で生活する人々に焦点を当てている。 『ドーサ 外されたひとり』 現在はマイアミで介護の仕事に就くエルシーのもとに、元…

『神馬/湖』竹西寛子

副題で精選作品集とあり、1989年に発行された自選短篇集のタイトルである『湖』と、2002年から2003年にかけて発行された『自選竹西寛子随想集』(のうち、高校の教科書に掲載されたもの)を合わせたものとなっている。 表題に選ばれている『神馬』は、1972年…

『遠い指先が触れて』島口大樹

「X」という字のような小説だと思った。「X」は離れていた線どうしがどんどん近づいていって、ある一点で交わり、そして離れていく。ただ、一度交わった線は、交差する前の線と同じだろうか。例えば、絵の具を使って、赤の線と青の線で「X」の字を書いたとし…

『女性兵士という難問』佐藤文香

数日前に、自衛官時代にセクハラの被害を受けた女性に対し、防衛省が謝罪するという出来事があった。その女性は、東日本大震災で被災した時に風呂の準備をしてくれた女性自衛官に憧れて自衛官になったという。そこで思ったのが、少女の風呂の準備をした女性…

『アクシデンタル・ツーリスト』アン・タイラー

発表は1985年。1988年には映画化され、日本で公開されたときは「偶然の旅行者」の題名が付けられていたという。 『アクシデンタル・ツーリスト』は作品中では、主人公のメイコンが手掛けるビジネス旅行用のガイドブックのシリーズの名前として登場する。映画…

『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子

「おいしいごはんが食べられますように」というのは考えてみると変な言葉だと思う。料理を作った当人が、これから食べてもらう人にかける言葉ではないだろう。「食べられますように」だからお祈り文のようなもので、これを言われた本人がその後に食べるかど…

『ピラネージ』スザンナ・クラーク

読み手の想像力に挑むような小説は、年齢のせいか昔からの性分のせいか、なんとなく苦手意識がある。「なんでこうなった」とか「どうしてこうなるのか」という疑問が解決されないまま、展開の方が先に進んでしまって追いつけないような感じになる。以前、ス…

『眠りの航路』呉明益

呉明益の本を手に取るのは『自転車泥棒』についで二冊目である。他にも邦訳作品がある中で『眠りの航路』を選んだのは、『自転車泥棒』でこの作品が言及されていただけではなく、戦時中の日本の海軍工廠での生活が描かれていること、さらに、三島由紀夫が登…

『デュー・ブレーカー』エドウィージ・ダンティカ

『息吹、まなざし、記憶』にも登場した、トントン・マクートの暴力について関心があったため、引き続き手に取ってみたところ。「デュー・ブレーカー」は「朝露を蹴散らす者」から転じて「拷問執行人」という意味になるという。九つの作品からなる短編集で、…

『息吹、まなざし、記憶』エドウィッジ・ダンディカット

エドウィッジ・ダンディカットはハイチ出身の作家で、この作品以降はおもに作品社から、エドウィージ・ダンティカの名前で邦訳が出版されている。 これは彼女のデビュー作で、作品中でも重要な色である赤の装丁が目を引く。主人公は12歳の女の子のソフィー。…

『賢い血』フラナリー・オコナー

ちくま文庫版で。1999年の発行だけど、ずっとあとになって古本で購入したと思う。帯や裏表紙には「生と死のコメディ」とあるが「生と死の」という修飾に要注意。笑うには微妙なシーンも多いけれど、第5章のイーノックがヘイズを連れ回すシーンはコントのよ…